訳あり令嬢は次期公爵様からの溺愛とプロポーズから逃げ出したい
せっかくの探偵小説にもちっとものめり込むことはできない。
本の項をめくってみたはいいものの、先ほどから一文字だって頭に入ってきやしない。
どのくらい時間が経ったのか、体が固まってしまったため立ち上がり首を回しがてら窓の近くへ歩いた。
フューレアが屋敷の正面玄関を見渡していると、一台の馬車が屋敷の敷地内へと入ってくるのが目に飛び込んできた。
本を読む気にもなれないため、そのままぼんやりと眺めていると中から降りてきたのはギルフォードだった。これはもう、本人に苦情の一つでも言ってやるしかない。フューレアは部屋を飛び出した。
「ギルフォード!」
フューレアは応接間の扉を勢いよく開けた。
淑女の作法だとかそういう話はちょっと隅に置いておく。
部屋の中にはナフテハール男爵夫妻とギルフォードの三人のみ。
「フューレア。あなたは部屋に入っていなさい」
男爵が後ろを振り向いた。
「そういうわけにはいかないわ。わたし、ギルフォードにガツンと言っておかないと」
フューレアはギルフォードを睨みつける。
「フュー、私からもきみに話がある」
「わたしの話の方が先よ」
ギルフォードが立ち上がりフューレアの近くまでやってくる。
絶対に話の主導権を握ってやるんだから、と憤然としている目の前でギルフォードが片膝を床につけた。
「フューレア、いや、フィウアレア、どうか私の妻になってほしい。生涯にわたってきみを愛すると誓う。きみの愛をどうか私に捧げてほしい」
騎士が姫に忠誠を誓うように、ギルフォードはフューレアの前で跪いて、彼女の片方の手をそっと持ち上げ口づけを落とした。まっすぐにこちらを射抜く彼の瞳にははっきりと熱が籠っていた。
「なっ、なんてことをしているの!」
フューレアは叫んだ。
「なにって、求婚だよ。フュー、私の妻になってほしい。私のすべての愛をきみに捧げる」
「だめ。ねえ、立ち上がって。お願い、ギルフォード」
フューレアはギルフォードの手のひらの上から己のそれを引っこ抜こうとした。しかし、寸前のところで拒まれ、ぎゅっと握られてしまう。
「きみが私の妻になってくれると頷くまで立ち上がらない。私に、きみの愛を与えてほしい」
「だって……わたし、誰とも結婚をするつもりないのよ。だって、わたしは……」
「ゲルニー公国の大公家の血を引いているから? きみはいつも言っていたね。結婚をするつもりはないと。きみが心配するのも分かる。けれど、私はどんなことからでもきみを守ると誓う。きみも、将来生まれてくるであろう私たちの子供も全部まとめて私が引き受ける」
「だめよ……。だって、だって……お母様だって殺されてしまったわ」
「私がきみの盾になる。きみを危険な目に遭わせない」
「あなたを危険な目に遭わせたくはないわ」
「きみの騎士になれるのなら本望だよ」
「わたしは男爵家の養女よ。公爵家の跡取りのあなたとじゃ身分が釣り合わない」
「きみの出自は私が一番に知っている。世間がどう思うかなんて、そんなもの知ったことではない。それとも、きみは私のような臣下とは一緒になれない?」
「あなたはわたしの臣下ではないわ。ただの……友人だと思う。とにかく、立ち上がって」
「その言葉も残酷だけれど。私はきみの友人に甘んじるつもりはないよ。きみの一番になりたい」
「だって……」
ではどう言えばいいのだろう。
「とにかく、立ち上がって」
「では私の求婚を受けてくれるね?」
「それとこれとは別問題よ」
「一緒だよ。きみは私の求婚を受けるしかないんだ」
「そんなことないわ。生涯独身で構わない」
「では私も生涯独身を貫くよ。きみ以外の女性と結婚などするつもりもないしね」
本の項をめくってみたはいいものの、先ほどから一文字だって頭に入ってきやしない。
どのくらい時間が経ったのか、体が固まってしまったため立ち上がり首を回しがてら窓の近くへ歩いた。
フューレアが屋敷の正面玄関を見渡していると、一台の馬車が屋敷の敷地内へと入ってくるのが目に飛び込んできた。
本を読む気にもなれないため、そのままぼんやりと眺めていると中から降りてきたのはギルフォードだった。これはもう、本人に苦情の一つでも言ってやるしかない。フューレアは部屋を飛び出した。
「ギルフォード!」
フューレアは応接間の扉を勢いよく開けた。
淑女の作法だとかそういう話はちょっと隅に置いておく。
部屋の中にはナフテハール男爵夫妻とギルフォードの三人のみ。
「フューレア。あなたは部屋に入っていなさい」
男爵が後ろを振り向いた。
「そういうわけにはいかないわ。わたし、ギルフォードにガツンと言っておかないと」
フューレアはギルフォードを睨みつける。
「フュー、私からもきみに話がある」
「わたしの話の方が先よ」
ギルフォードが立ち上がりフューレアの近くまでやってくる。
絶対に話の主導権を握ってやるんだから、と憤然としている目の前でギルフォードが片膝を床につけた。
「フューレア、いや、フィウアレア、どうか私の妻になってほしい。生涯にわたってきみを愛すると誓う。きみの愛をどうか私に捧げてほしい」
騎士が姫に忠誠を誓うように、ギルフォードはフューレアの前で跪いて、彼女の片方の手をそっと持ち上げ口づけを落とした。まっすぐにこちらを射抜く彼の瞳にははっきりと熱が籠っていた。
「なっ、なんてことをしているの!」
フューレアは叫んだ。
「なにって、求婚だよ。フュー、私の妻になってほしい。私のすべての愛をきみに捧げる」
「だめ。ねえ、立ち上がって。お願い、ギルフォード」
フューレアはギルフォードの手のひらの上から己のそれを引っこ抜こうとした。しかし、寸前のところで拒まれ、ぎゅっと握られてしまう。
「きみが私の妻になってくれると頷くまで立ち上がらない。私に、きみの愛を与えてほしい」
「だって……わたし、誰とも結婚をするつもりないのよ。だって、わたしは……」
「ゲルニー公国の大公家の血を引いているから? きみはいつも言っていたね。結婚をするつもりはないと。きみが心配するのも分かる。けれど、私はどんなことからでもきみを守ると誓う。きみも、将来生まれてくるであろう私たちの子供も全部まとめて私が引き受ける」
「だめよ……。だって、だって……お母様だって殺されてしまったわ」
「私がきみの盾になる。きみを危険な目に遭わせない」
「あなたを危険な目に遭わせたくはないわ」
「きみの騎士になれるのなら本望だよ」
「わたしは男爵家の養女よ。公爵家の跡取りのあなたとじゃ身分が釣り合わない」
「きみの出自は私が一番に知っている。世間がどう思うかなんて、そんなもの知ったことではない。それとも、きみは私のような臣下とは一緒になれない?」
「あなたはわたしの臣下ではないわ。ただの……友人だと思う。とにかく、立ち上がって」
「その言葉も残酷だけれど。私はきみの友人に甘んじるつもりはないよ。きみの一番になりたい」
「だって……」
ではどう言えばいいのだろう。
「とにかく、立ち上がって」
「では私の求婚を受けてくれるね?」
「それとこれとは別問題よ」
「一緒だよ。きみは私の求婚を受けるしかないんだ」
「そんなことないわ。生涯独身で構わない」
「では私も生涯独身を貫くよ。きみ以外の女性と結婚などするつもりもないしね」