訳あり令嬢は次期公爵様からの溺愛とプロポーズから逃げ出したい
重い眼差しに震えてしまいそうになる。けれども、ずっと助けてくれたレーヴェン公爵の話なのだから、フューレアは聞かなければならない。
「聞かせて頂戴」
膝の上に置いたこぶしをぎゅっと握りしめる。
レーヴェン公爵は重々しく口を開いた。
その内容は、フューレアにとっては少し意外だった。けれども、決断のいることだった。それに、一度動き出してしまえば止めることはできない。
フューレアはレーヴェン公爵の話が終わってもその場から動けないでいた。
「少し時間が必要なのはわかりますが。彼の国の情勢はころころ変わります」
何が最善なのかはレーヴェン公爵も本当の父であるフィウレオも分からない。それはフューレアも一緒で、今この時に判断をしながら生きていくしかないのだ。
「我が愚息も、少しくらいはあなた様の盾にはなりましょう」
今日はじめて彼の目元が緩んだ。
フューレアはようやく緊張を解くことが出来た。
体から力が抜けたその時、大きな音がした。 ノックも無しに応接間の扉が開かれたのだ。
「父上。私に断りもなくフューに会うとは、どういうことですか」
そこには怒りに顔を歪ませたギルフォードの姿があった。
「私がフューレア嬢と話をするのはそんなにもいけないことか?」
ギルフォードの後ろには少々眉を引きつらせたナフテハール男爵家の執事の姿があった。
「ええ、もちろん。父上であっても私のフューと二人きりになることなんて許しませんよ」
嫉妬心丸出しの息子の台詞を聞いてもレーヴェン公爵家は顔色一つ変えなかった。どちらかというとフューレアの方が肩を縮こませてしまった。なんとなく、申し訳ない気持ちになったのだ。
「さて、フューレア嬢。私はお暇します。今日のことは、折を見て私からそこの息子へ話をしますゆえ」
フューレアは小さく頷いた。
まずは自分だけで考えてほしいということなのだ。了承の意を受け取ったレーヴェン公爵はそのまま屋敷を去っていった。
対するギルフォードはフューレアを己の腕で抱きしめた。
「フュー、一体何を話していたんだ?」
「内緒」
「フュー」
ギルフォードの声が硬くなった。
しかし、言えないものは言えない。別にギルフォードを信用していないわけではない。きっと、これはフューレア自身で決めなくてはいけないことだから。
「ギルフォード、わたしはもう十三歳の子供ではないわ」
そう言うと、彼は口をつぐんだ。
ギルフォードが迎えに来たということは、そろそろ出発の時間だ。
「少し手直しをしてくるわね。待っていてくれる?」
からりと口調を変えるとギルフォードはそれ以上は何も言わずにただ「行っておいで」とフューレアを見送ってくれた。フューレアは急いで身支度を整えた。
考えることはたくさんあるけれど、今はせっかくのダブルデートを楽しみたかった。
* * *
劇場にほど近いレストランは、それなりに賑わっていた。
運河に面したレストランの、水辺に設えられたテーブル席にフューレアはギルフォードと並んで座っている。正面には同じようにアマッドとエルセが並んで着席していて、それぞれの席の前に料理が運ばれている。
さすがは貿易大国だけあって、この国では異国の野菜や果物も多く流通している。
「トマトを器にするとは。洒落てますね」
カルーニャでは広く流通している野菜であるトマトは、まだ珍しい野菜だがこのレストランでは小エビのサラダの器として使われていた。
「聞かせて頂戴」
膝の上に置いたこぶしをぎゅっと握りしめる。
レーヴェン公爵は重々しく口を開いた。
その内容は、フューレアにとっては少し意外だった。けれども、決断のいることだった。それに、一度動き出してしまえば止めることはできない。
フューレアはレーヴェン公爵の話が終わってもその場から動けないでいた。
「少し時間が必要なのはわかりますが。彼の国の情勢はころころ変わります」
何が最善なのかはレーヴェン公爵も本当の父であるフィウレオも分からない。それはフューレアも一緒で、今この時に判断をしながら生きていくしかないのだ。
「我が愚息も、少しくらいはあなた様の盾にはなりましょう」
今日はじめて彼の目元が緩んだ。
フューレアはようやく緊張を解くことが出来た。
体から力が抜けたその時、大きな音がした。 ノックも無しに応接間の扉が開かれたのだ。
「父上。私に断りもなくフューに会うとは、どういうことですか」
そこには怒りに顔を歪ませたギルフォードの姿があった。
「私がフューレア嬢と話をするのはそんなにもいけないことか?」
ギルフォードの後ろには少々眉を引きつらせたナフテハール男爵家の執事の姿があった。
「ええ、もちろん。父上であっても私のフューと二人きりになることなんて許しませんよ」
嫉妬心丸出しの息子の台詞を聞いてもレーヴェン公爵家は顔色一つ変えなかった。どちらかというとフューレアの方が肩を縮こませてしまった。なんとなく、申し訳ない気持ちになったのだ。
「さて、フューレア嬢。私はお暇します。今日のことは、折を見て私からそこの息子へ話をしますゆえ」
フューレアは小さく頷いた。
まずは自分だけで考えてほしいということなのだ。了承の意を受け取ったレーヴェン公爵はそのまま屋敷を去っていった。
対するギルフォードはフューレアを己の腕で抱きしめた。
「フュー、一体何を話していたんだ?」
「内緒」
「フュー」
ギルフォードの声が硬くなった。
しかし、言えないものは言えない。別にギルフォードを信用していないわけではない。きっと、これはフューレア自身で決めなくてはいけないことだから。
「ギルフォード、わたしはもう十三歳の子供ではないわ」
そう言うと、彼は口をつぐんだ。
ギルフォードが迎えに来たということは、そろそろ出発の時間だ。
「少し手直しをしてくるわね。待っていてくれる?」
からりと口調を変えるとギルフォードはそれ以上は何も言わずにただ「行っておいで」とフューレアを見送ってくれた。フューレアは急いで身支度を整えた。
考えることはたくさんあるけれど、今はせっかくのダブルデートを楽しみたかった。
* * *
劇場にほど近いレストランは、それなりに賑わっていた。
運河に面したレストランの、水辺に設えられたテーブル席にフューレアはギルフォードと並んで座っている。正面には同じようにアマッドとエルセが並んで着席していて、それぞれの席の前に料理が運ばれている。
さすがは貿易大国だけあって、この国では異国の野菜や果物も多く流通している。
「トマトを器にするとは。洒落てますね」
カルーニャでは広く流通している野菜であるトマトは、まだ珍しい野菜だがこのレストランでは小エビのサラダの器として使われていた。