【完】夢見るマリアージュ

声を上げて笑った顔は、正に王子様そのものだった。 その笑顔をこんな私に向けてくれるなんて、胸が苦しい。

眩しすぎる笑顔。 それはヒエラルキー上位にいるものだけに許される、自信だ。

耐えきれなくなった私は鞄を両手で抱えたまま、俯く。 ろくに彼の顔も見ずに「お疲れ様です」と言ってその場を早々に去ろうとした。


まるで告白してもいないのに、こっちが振られたような惨めな気持ちになる。
だって私は下層階の人間だから。

北斗さんのような社長の息子で、恵まれた容姿を持っているような人の瞳に映るのさえ罪なのだから。

ネガティブと言われればそれまでかもしれないが、それが最下層を生きてきた人間の性なのだ。

「あ…。お疲れ様。 城田さん今日も残業だったんだ。 いっつもありがとうね。 帰り道、気を付けてね。」

彼の言葉に振り向けなかった。
走り出してオフィスビルから出た後も心臓がバクバクといったままだ。
真っ暗な空を切り取られた満月がぽつりと浮かび上がっていた。

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