ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 暖かい一室に通されて、リーゼロッテはようやく人心地ついていた。あれだけの中にいたのに、不思議とリーゼロッテはまったく雪にぬれていない。カイは思いっきり雪まみれになっていたにもかかわらずだ。
 グレーデン家もこの事態を前に、さすがに騒然となっているようだ。時折、廊下を人の気配が、行き過ぎては遠ざかっていく。

「リーゼロッテ嬢、怖かったとは思うけど、あの時何があったのかオレに話してくれる?」

 カイの言葉に、後ろで控えていたエラが顔をしかめた。

「お言葉ですが、デルプフェルト様。お嬢様はあんなにも恐ろしい目に合われたのです! もう少し気遣いというものを……」

 そこまで言って、エラはすとんとカイに倒れ込んだ。その体をひょいと横抱きにすると、カイは脱力したエラの体を一人がけのソファへと座らせる。

「カイ様……!」

 また眠り薬を使ったのだろう。わかっていても非難めいた声が出てしまう。
「ごめん。でも、この事態は見過ごせるようなものじゃないんだ。さっきリーゼロッテ嬢が遭遇したのは、恐らく異形の者だから」

 その言葉にリーゼロッテはぎゅっと唇とかみしめた。あの女の瞳を思い出して、ぶるりと寒気が背筋を走る。

 カイはソファに座るリーゼロッテの前で、目線を合わせるように片膝をついた。

「リーゼロッテ嬢は何を見たの? 見たままでいいから話してほしい」

 真剣なまなざしに、リーゼロッテは震えながらもこくりと頷いた。

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