ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 リーゼロッテはふいに目覚めた。自室ではない天井と壁が目に入る。体を起こすと、胸のペンダントが夜着の中で揺れた。

 窓の方を見やると、厚いカーテンの隙間から光が漏れており、ちゅんちゅんと小鳥のさえずる声が聞こえてくる。

 ベッドから起き上がり、窓の方へと歩いていく。カーテンをそっとめくって、外をながめると、そこには美しく整えられた王城の庭が、朝日に照らされて広がっていた。

 リーゼロッテは、眠ると必ずといっていいほど夢を見た。
 時には、途方に暮れそうなほど山盛りの洗濯物をひたすら洗って干してたたむ夢だったり、ぼろぼろの大きな壁一面にペンキをキレイに塗っていく夢だったり、地面にぽっかり空いた大きな穴をスコップで懸命に埋める夢だったり。

 庭に生えている細くて長い雑草が罠のように結ばれていて、脚を引っかけて転ばないようにと、庭中の草の罠を刈って回ったこともあった。

 目覚めたときに疲労感を感じるほどに、リアルでへんてこな夢が多かった。そのかわり、やり遂げた達成感がハンパない、そんな夢だ。

 だが今朝方見た夢は、なんだかやるせない気持ちになった。いつもの夢なら、荒れた庭を綺麗に整えて、怪我をしている人も助けることができるのに――

 リーゼロッテは、そのまましばらく朝日に照らされて煌めく庭をみつめていた。

< 140 / 2,019 >

この作品をシェア

pagetop