ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「リーゼロッテお嬢様?」

 うしろから戸惑ったようなエラの声がした。振り返ると、クッキーのつまったバスケットをかかえたエラが、開かれたドアの前に立っていた。

「まだお休みかと……ノックもせずに寝室に入り申し訳ありませんでした」

 エラは驚いたような声音で言った。

「お腹はすいておりませんか?」

 エラは毎朝、バスケットいっぱいのクッキーを、リーゼロッテに食べさせるのが日課だった。
 目覚めたばかりのリーゼロッテは、いつも寝起きが悪く、目を閉じてうつらうつらとしている。そこに、一枚一枚クッキーを食べさせると、バスケットのクッキーがなくなるころに、ようやくリーゼロッテは目を開けるのだ。

 リーゼロッテが自分で起きだすなど、エラが侍女として仕えてから一度もないことだった。

「ありがとう、エラ。昨日から不思議とお腹があまり減らないわ。それよりもお水をもらえるかしら?」

 慌ててコップに水を注ぎ慎重にリーゼロッテに差し出すと、エラは悲嘆に暮れたように言った。

「お嬢様が食欲をなくされるなんて! やはり慣れない王城で 体調をおくずしになったのでは……」
「きっと王子殿下とジークヴァルト様が、お力をかしてくださったからだわ。ほら、わたくし、こうやってお水を飲めているでしょう?」

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