ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 応接室に入ると、小さくて害のなさそうな小鬼に、手をかざして目を閉じているリーゼロッテがいた。眉間にしわを寄せ、何事かつぶやいている。

(祓いたまえ清めたまえ、なむあみだぶつのなんみょうほうれんげきょーのきゅうきゅうにょりつりょー!)

 ぱっと目を開けると、リーゼロッテはまた小さく悲鳴を上げた。

「消えないっ」

 その後ろでジークヴァルトが、無表情のまま腕を組んでそんなリーゼロッテを眺めている。

「何をやってるの?」
「王子殿下! 気づかずに申し訳ございません」

 ハインリヒが声をかけると、リーゼロッテが驚いたようにあわてて礼を取った。

「ここではそういうのはいいから」

 彼女の反応の方が世間的には正しいのだろうが、ここにいる無礼な面々の前ではもはやそんなことはどうでもよくなる。ですが、と言いつのるリーゼロッテに、ハインリヒは気にしないよう言い含めた。

「いいよ。このふたりを見習えとは言わないけど、この部屋では不敬とかそういうのは問わないよ」
 肩をすくめて見せて、普段から一番不敬を働いているジークヴァルトに向き直った。

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