ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「猫の殿下と、このわたしには、何があっても決して触れぬこと。……約束してくれるか?」

 真剣な目で見つめられ、アンネマリーは是の答えしか返せなくなる。

「はい。決して触れないとお約束いたします。でも……」

 今度は、アンネマリーが水色の瞳を伏せ、再びハインリヒを見つめた。

「お約束はふたつだけでよろしいのですか? あとひとつ……今日見たことを、わたくし、誰かにしゃべってしまうかもしれませんわ」

「ではこの秘密は、ふたりだけのものに」

 これも約束だ、とハインリヒが柔らかい表情で言った。

「はい、ハインリヒ様」


 どちらからともなくくすりと笑い、ふたりは猫の殿下が邪魔をするまで、しばらく見つめ合ったままでいた。


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