ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 こんな会話は、実は今日が初めてではない。リーゼロッテは幾度となく訴えてはいるが、ジークヴァルトが頑として首を縦に振らなかった。

 通り過ぎざま、また騎士たちとすれ違う。ふたりに道を開け騎士の礼を示しているが、その視線は好奇心に満ちたものだ。リーゼロッテにとっては異形の存在よりも、こちらの方がよっぽどいたたまれなかった。

 リーゼロッテはもうすぐ十五歳を迎えようとしていた。十五歳と言えば、ブラオエルシュタインで成人とみなされる年だ。早い者で結婚する者も出始める。

 そんな年にもなって、毎日城の中を、子供抱きにされ、行き帰りを輸送されるのだ。そう、輸送だ。これは完全に荷物の運搬業務だ。

(うう、恥ずかしすぎる。恥ずかしぬってこういうことを言うんだわ)

 騎士たちとすれ違うたびにリーゼロッテは、ジークヴァルトの首筋にしがみついて隠すように顔をうずめた。顔を見られないようにするには、そうするしか手立てがなかった。

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