ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「……ヴァルト様」

 結果、耳元でささやくようになる。

「わたくしは、恥ずかしいのです。毎日、このように、荷物のように運ばれて……」

 耳にかみついてやれば、驚いて降ろしてくれるかもしれない。リーゼロッテが真剣にそう思ったとき、ジークヴァルトの足がピタリと止まった。まだ、行程を半分行ったくらいの場所だった。

「そうか」

 ジークヴァルトは、すとんとリーゼロッテを下に降ろした。突然のことに、リーゼロッテは向かい合わせになったまま、ぽかんとジークヴァルトを見上げた。

「なんだ? 歩かないのか?」

 再び抱き上げようとするジークヴァルトに、リーゼロッテはあわてて距離をとる。

「歩きます! 歩かせていただきます!」

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