ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「そうだ、ジークヴァルト様。みなに配る守り石が、最近、消費が激しくて困っているんです。これ、ちゃちゃっと力込めちゃってくださいませんか?」

 そう言うとカイは、脇に置いてあった箱を手に取りその蓋を開けた。中には、大小様々な丸いくすんだ石が入れられている。

「ああ」

 何か書類に目を通しながら、ジークヴァルトはカイに手のひらを向けた。カイは箱から石をひとつ取って、ジークヴァルトのその手に乗せる。

 視線は書類から離さず石を一握りすると、次の瞬間、ジークヴァルトは手首のスナップをきかせてその石を後ろに放り投げた。その石を、別の箱でカイが器用にキャッチする。見ると、くすんでいた石の色は綺麗な青に変化していた。

 石を渡され、握り、放る。その作業は高速で行われた。その間、ジークヴァルトは書類に目を通したまま、一連の動きには目もくれていない。ぽい、ぽい、ぽいと、最後の石が投げ込まれると、カイが満足そうに箱の蓋を閉めた。

「はー、いつ見てもジークヴァルト様の妙技はすごいなー。誰よりも早くて間違いない」

 じゃあ、これ、早速届けてきます、そう言って、カイは応接室を後にした。

< 187 / 678 >

この作品をシェア

pagetop