ふたつ名の令嬢と龍の託宣
それをずっと目にしていたリーゼロッテは、知らず両手にこぶしを作ってわなわなと震えていた。
「わたしは隣の執務室にいる。クラッセン侯爵令嬢の件は少し時間をもらえるかい?」
懐中時計の蓋を開いて時間を確認すると、ハインリヒはリーゼロッテに声をかけた。
リーゼロッテが我に返り、「は、はい、もちろんでございます」と言うと、ハインリヒはいつになく軽やかな笑顔でうなずいてから隣の執務室へと向かっていった。
そして、リーゼロッテはまたジークヴァルトと二人きりだ。いや、ジークヴァルトの守護者たるジークハルトも先ほどからそこに浮かんでいるのだが。
「さて、ダーミッシュ嬢」
ジークヴァルトは、リーゼロッテの肩に手を乗せ、いつものように椅子に座らせようとした。
「さて、ではございません!」
ジークヴァルトの手をするりと抜けて、リーゼロッテは片手を腰に置き、憤慨したように言いつのった。
「先ほどのあれは何なのですか? あんなふうに手に触れて簡単に力が籠められるなら、必要以上に近づく必要などないではありませんか!」
「わたしは隣の執務室にいる。クラッセン侯爵令嬢の件は少し時間をもらえるかい?」
懐中時計の蓋を開いて時間を確認すると、ハインリヒはリーゼロッテに声をかけた。
リーゼロッテが我に返り、「は、はい、もちろんでございます」と言うと、ハインリヒはいつになく軽やかな笑顔でうなずいてから隣の執務室へと向かっていった。
そして、リーゼロッテはまたジークヴァルトと二人きりだ。いや、ジークヴァルトの守護者たるジークハルトも先ほどからそこに浮かんでいるのだが。
「さて、ダーミッシュ嬢」
ジークヴァルトは、リーゼロッテの肩に手を乗せ、いつものように椅子に座らせようとした。
「さて、ではございません!」
ジークヴァルトの手をするりと抜けて、リーゼロッテは片手を腰に置き、憤慨したように言いつのった。
「先ほどのあれは何なのですか? あんなふうに手に触れて簡単に力が籠められるなら、必要以上に近づく必要などないではありませんか!」