ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第6話 生まれかわって】

「久しぶりね、リーゼロッテ」

 聞き覚えのある声に、礼も忘れて顔を上げた。そこに立っていたのはクリスティーナだった。亡くなったはずの王女がなぜ。亡霊を見る思いで、リーゼロッテはその美しい顔を凝視した。

「あなたたちは相変わらずのようね」

 中途半端な姿勢でいるリーゼロッテを、ジークヴァルトが横から支えてくる。その様子にクリスティーナは涼やかな笑い声を立てた。

「クリス……ティーナさ、ま……クリスティーナさまっ!!」

 ジークヴァルトの手を離れ、目の前まで駆け寄った。膝をつき、確かめるように手を伸ばす。
 クリスティーナの白い指先が、震える手を絡めとった。伝わってくる温もりに、幻でないことを知る。本当に王女がここにいる。リーゼロッテの頬を、大粒の涙がすべり落ちた。

「本当に相変わらずね」

 王女の手を包み込んだまま、ぼろぼろと泣き続けるリーゼロッテに若干の苦笑いを向ける。

「いいからもうお立ちなさい。ここではなんだから、奥でゆっくり話しましょう?」
「サロンに席を用意してございます。公爵様もどうぞご一緒に」

 子爵の言葉に、クリスティーナが背を向け歩き出そうとする。そこをすかさず抱きあげて、アルベルトが王女を車椅子に座らせた。

「自分で歩けると言ったでしょう?」
「無理はするなと言われたのをお忘れですか? 長距離はまだ歩かせませんよ」
「ほんと、口うるさい男」

 言葉とは裏腹に楽し気に言う。そんなクリスティーナを乗せたまま、アルベルトは奥へと車椅子を押していった。

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