ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 気づけば、リーゼロッテは守り石を握らされ、ジークヴァルトの腕の中でぐったりと抱き寄せられていた。

「この石のせいなのか? いや、しかし今のは……」

 リーゼロッテを凝視したまま、ジークヴァルトがつぶやいた。

「おい、ダーミッシュ嬢。この石を手にしてから、何がどう変わった? 些細なことでもいい。すべて答えろ」

 両頬を片手でつかまれ、リーゼロッテはむにと不細工顔にされて上向かされた。

『女の子にそれはないんじゃない?』

 両手を頭の後ろで組み、あぐらをかいて浮かんだままのジークハルトがのんきに言った。言葉とは裏腹に、リーゼロッテを楽しげにのぞき込んでいる。

 言われていることはわかっていても、リーゼロッテは答えることができず、ぎゅっと目をつむった。どくどくと心臓の鼓動がうるさく響いている。


「今のは何だ?」

 何かを感じたハインリヒが、執務室から戻ってきていた。しかし、顔色が悪いリーゼロッテに気づくと、ハインリヒはジークヴァルトに今日はもう休ませるように言った。

 ジークヴァルトに抱えられ客間に戻ったリーゼロッテは、そのまま深い眠りに落ちていく。
 その日は一度も目覚めないまま夜が更けていった。

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