ふたつ名の令嬢と龍の託宣
第1話 昼下がりのため息
なだらかな丘の向こうにルチアの鮮やかな赤毛を見つけ、リーゼロッテは懸命に坂道を駆けた。春先とはいえ、日没間近は肌寒い。ふらふらと彷徨うルチアは、薄い夜着のままだ。
「ルチア様……!」
ようやく追いつき、掴んだ手の冷たさに驚いた。それでもルチアはあてどなく裸足で進む。その前進を押しとどめようと、羽織っていたショールでルチアを包み込んだ。
「いけませんわ。ルチア様、もうあちらに戻りましょう?」
「カイが……」
「え?」
「カイがいないの」
焦点の合わない瞳で、ルチアは遠く見回した。
「離して。わたし、カイを探さなきゃ」
「ルチア様……」
「ねぇカイ、どこにいるの? 意地悪しないで早く出てきて」
腕を抜けようともがくルチアを必死に制する。若草の茂みの中、もつれるようにふたりでその場に崩れ落ちた。
「カイ、どうして……どうして会いに来てくれないの?」
金色の瞳からあふれる涙に、かける言葉を失った。風吹き抜ける草むらで、誰か助けを呼ぶこともできなくて。
ルチアの冷え切った体を、その日、リーゼロッテは涙をこらえて抱きしめるしかなかった――
「ルチア様……!」
ようやく追いつき、掴んだ手の冷たさに驚いた。それでもルチアはあてどなく裸足で進む。その前進を押しとどめようと、羽織っていたショールでルチアを包み込んだ。
「いけませんわ。ルチア様、もうあちらに戻りましょう?」
「カイが……」
「え?」
「カイがいないの」
焦点の合わない瞳で、ルチアは遠く見回した。
「離して。わたし、カイを探さなきゃ」
「ルチア様……」
「ねぇカイ、どこにいるの? 意地悪しないで早く出てきて」
腕を抜けようともがくルチアを必死に制する。若草の茂みの中、もつれるようにふたりでその場に崩れ落ちた。
「カイ、どうして……どうして会いに来てくれないの?」
金色の瞳からあふれる涙に、かける言葉を失った。風吹き抜ける草むらで、誰か助けを呼ぶこともできなくて。
ルチアの冷え切った体を、その日、リーゼロッテは涙をこらえて抱きしめるしかなかった――