ふたつ名の令嬢と龍の託宣
【第12話 涙するもの】
エラは困惑していた。
その日エラはジークヴァルトに連れられて、王太子殿下の執務室へと参上していた。王族など、ほとんど雲の上の存在だった。
エラも一応は貴族の端くれだったが、たまたま事業が認められて賜った一代限りの男爵の娘だったというだけだ。治める領地があるわけでもなく、父が死ねば一家はただの平民になる。
自分が爵位持ちの跡取り息子にでも嫁げば、話はまた別であったが、エラはリーゼロッテの侍女であることに矜持を持っていた。リーゼロッテを置いて嫁ぐなど、エラの人生の選択肢にはかけらもない。
王族には社交界デビューで遠巻きに会ったくらいだ。デビュタントとして、父親と一緒に王に挨拶はしたはずだが、緊張のあまりよく覚えていない。そんなエラが、今、王子の前に立たされていた。
「呼び立ててすまなかったね」
王子に直接声をかけられて、エラは頭を垂れたまま上ずった声で返した。
「恐れ多いお言葉にございます」
「エデラー嬢、顔をあげていいよ。リーゼロッテ嬢のことで、侍女である君に聞きたいことがある」
女嫌いで有名な王子は、『氷結の王子』にふさわしくないやさしい声で言った。
エラは恐る恐る顔を上げたが、王子は恐ろしいくらい整った顔をしていた。黒い騎士服のジークヴァルトが無表情でその後ろに控えていて、エラの緊張感をさらにあおった。
その日エラはジークヴァルトに連れられて、王太子殿下の執務室へと参上していた。王族など、ほとんど雲の上の存在だった。
エラも一応は貴族の端くれだったが、たまたま事業が認められて賜った一代限りの男爵の娘だったというだけだ。治める領地があるわけでもなく、父が死ねば一家はただの平民になる。
自分が爵位持ちの跡取り息子にでも嫁げば、話はまた別であったが、エラはリーゼロッテの侍女であることに矜持を持っていた。リーゼロッテを置いて嫁ぐなど、エラの人生の選択肢にはかけらもない。
王族には社交界デビューで遠巻きに会ったくらいだ。デビュタントとして、父親と一緒に王に挨拶はしたはずだが、緊張のあまりよく覚えていない。そんなエラが、今、王子の前に立たされていた。
「呼び立ててすまなかったね」
王子に直接声をかけられて、エラは頭を垂れたまま上ずった声で返した。
「恐れ多いお言葉にございます」
「エデラー嬢、顔をあげていいよ。リーゼロッテ嬢のことで、侍女である君に聞きたいことがある」
女嫌いで有名な王子は、『氷結の王子』にふさわしくないやさしい声で言った。
エラは恐る恐る顔を上げたが、王子は恐ろしいくらい整った顔をしていた。黒い騎士服のジークヴァルトが無表情でその後ろに控えていて、エラの緊張感をさらにあおった。