ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 気づくと、リーゼロッテの目の前に、クッキーを片手に持ったジークヴァルトがいた。ぼんやりとそれを見ていると、ジークヴァルトがそっと自分の口にクッキーを差し入れた。

 香ばしく甘い味が口の中に広がる。すこし水分がほしい。リーゼロッテはそう思った。

 口の中でもごもごやっていると、口もとにコップのふちが当たったように感じた。大きな手からコップをうけとると、ゆっくりその水を含んだ。

 しみこむように水分がのどを通っていく。みんなののどはちゃんと潤っただろうか。

 ふいにジークヴァルトと視線が合った。

 無表情の顔の眉間に一瞬だけしわが寄ったように見えたが、次の瞬間、目の前が真っ暗になった。背中がぎゅうと締めつけられ息が苦しくなる。

「ヴァルト様、なんだか目の前が暗くてくるしいです……」

 ようやくそう言うと、息苦しさはすっと解消した。

 視界は暗いままだったが、髪をなでられて、背中をぽんぽんと叩かれた。

 それがなんだか心地よくて、自分がまぶたを閉じているのだと思い至った。だからきっと目の前が暗いのだ。

 納得して、リーゼロッテは心置きなく眠りに落ちた。


 眠りに落ちる寸前に、たくさんの『ありがとう』が耳に木霊した――


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