ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「お前、何を企んでいる?」

 自分の守護者が口をはさんでくることなど、今まで一度もなかったことだ。

『さあね』

 そう言うとジークハルトは、天井高く浮き上がった。そのまま天井を抜けようとして、『そうそう、リーゼロッテ』と下に向き直った。

『鎧の大公がリーゼロッテにありがとうって言ってたよ』

 そう言い残すと、天井からするりと抜けて部屋からいなくなってしまった。

(鎧の大公様が……? 異形たちを祓ったお礼かしら?)

「……それにしても、母様の力がわたくしを守っているなんて」

 リーゼロッテは自分の内に母の力の片鱗を探してみるが、よくわからなかった。

「ヴァルト様はお分かりになりますか……?」

 その問いにジークヴァルトは「ああ」と返した。
 あの薄い膜がそうなのかもしれない。


(――守るというより、隠すという方がしっくりくるが)

 なぜかジークヴァルトはそんな風に思った。

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