ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「それに、母様の託宣の相手って……イグナーツ父様のことですか?」

 うん、そうだよ、というジークハルトの返事に、リーゼロッテは「母様が父様に苦労していた?」と再び首をかたむけた。

 リーゼロッテの幼いころの記憶は朧気だったが、実の両親の仲が悪かったような気はしない。どちらかというと仲睦まじかったように思えた。ジークハルトの言うことは、全く要領を得なかった。

「どういうことだ?」

 ジークヴァルトはジークハルトに向かって眉間にしわを寄せた。

『さあ? ジークフリートあたりに聞けば、教えてくれるんじゃない?』

 そう言ってジークハルトは、あぐらをかいたままゆらゆらと体を揺らしている。
 それ以上は教えないということか。ジークヴァルトは、いつになく饒舌な自分の守護者に苛立ちを憶えた。

 託宣を終えた者たちは、次代の託宣を持つ者に一切の助言を与えない。それはディートリヒ王だけではなく、すべての託宣を受けた者たちに言えることだった。

 知っているくせにはぐらかすジークハルトを、ジークヴァルトは睨みつけた。

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