ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第16話 星読みの王女】

「……聖女の力が目醒めたそうね」

 王女は高い塔の一室の窓から、遠くに見える王都ビエルサールを見つめていた。霧にけぶる街並みのその向こうに、王城の影がおぼろげに浮かんでいる。

「クリスティーナ様……」

 後ろに控えていた侍女が、青ざめた顔でその名を呼ぶ。部屋の扉の前にたたずむ従者の男は、表情を変えず無言のままだ。

 第一王女が住まう離宮の一つである東宮は、静寂に包まれていた。まるで世界と隔離されているかのように。

「ピッパが帰ったら随分と寂しくなったわ」

 可愛い妹姫を思い出しながら務めて明るく言うと、クリスティーナは右手につけられたハンドチェーンの飾りの宝石をちゃりといじった。

 白く細い手首にはめられたブレスレットから幾重にもチェーンが伸び、王女の中指の指輪につながっている。
 チェーンは繊細に編み込まれており、まるで緻密で豪華なレースのようにもみえた。
 手の甲はそれに飾られた数々の宝石で隠されている。

 うつむいた王女の頬に、プラチナブロンドの髪がさらりとかかった。その表情は穏やかだったが、はらんだ緊張を隠しきることはできていない。

 託宣が果たされるときは近い。

 ――そのために、自分は生かされてきたのだから。


 王女はその菫色の瞳で、静かに王都の街並みを、遠く、みやっていた。

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