ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 リーゼロッテは王妃の離宮に滞在しているアンネマリーを訪ねていた。

 アンネマリーにあてがわれた部屋は豪華な広い客間で、気後れしてしまうほどきらびやかな雰囲気だった。自分が滞在する客間も、十分立派な部屋だったが、こちらは女性が好むような趣向の内装が施されている。

「アンネマリーの部屋はとても華やかなのね」

 豪華絢爛な調度品の数々に、リーゼロッテはいつも以上に緊張していた。異形は近くにいなかったが、不意を突かれて粗相を働かされてはたまったものではない。無意識に胸の守り石を握りしめた。

「この部屋は豪華すぎて落ち着かないわよね」

 アンネマリーはもう慣れたというように、肩をすくめて見せた。

 『星読みの間』と呼ばれるこの部屋は、実は、王太子妃が王妃教育のために代々使ってきた部屋だった。しかし、アンネマリーにはその事実を知らされてはいない。

「この居間と寝室の他に、サロンと衣裳部屋と書斎までついているのよ? まるでお姫様になった気分だわ」

 実際、アンネマリーには専属の王城の侍女がついて、衣装から何からすべて揃えられていた。

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