ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第17話 隻眼の騎士】

「王子殿下。地方の任務から戻った騎士が、報告に参っております」

 キュプカーにそう言われ、執務室で書類仕事に追われていたハインリヒは、その手を止めることなく言葉を返した。

「ああ、通して構わない」

 頷いたキュプカーは執務室の扉を開け、外にいた人物を室内に招き入れた。書類に視線を向けたままだったハインリヒの視界の片隅に、優雅に歩いてくる騎士服をまとった足が見えた。

「アデライーデ・フーゲンベルク、ただ今召集により戻りました。北方の任務のため、帰還が遅くなり申し訳ありません」

 跪いて礼を取った主の声は、落ち着いた低めの声音だったが、それはうら若い女性のものだった。

 その名前を聞いた途端、ハインリヒははじかれたように顔を上げ、両手を机についたまま椅子から乱暴に立ちあがった。その顔は、青いを通り越して紙のように白くなっている。

 何かを言いかけた唇は小刻みにふるえ、ハインリヒは信じられないものを見るかのように、目の前で跪く彼女を凝視した。

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