ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 この一カ月、リーゼロッテがいない屋敷は暗く沈んでいた。部屋から滅多に出ない娘だったが、こんなにも存在感があったのだと、父であるフーゴも驚いたくらいだった。

「我が弟は不器用な奴ですが、嘘だけはつかない男です。必ずリーゼロッテ嬢をお守りするとお約束します」

 そう言って、アデライーデはフーゴに微笑みかけた。

 フーゴはリーゼロッテの義父として、フーゲンベルクの若き公爵とは月に一度は面会してきた。

 公爵はリーゼロッテに会おうとはしなかったが、それはリーゼロッテの生家であるラウエンシュタイン家の意向だった。

 ジークヴァルトはずっと、頑なにそれを守り続けていたが、今回の王城滞在は、王子殿下の命だったため、公爵も従わざるを得なかったのだろう。

 公爵はアデライーデが言うように不器用そうな青年だったが、リーゼロッテに気遣いをみせる様は確かに誠実と言えた。

「こちらこそ、世間知らずでふつつかな娘ですが、どうぞよろしくお願いいたします」

 フーゴは深々とアデライーデに頭を下げた。

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