ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第19話 無知なる者】

 アデライーデは、つくづくこのダーミッシュ家はおもしろいと思っていた。

 当主であるダーミッシュ伯爵はもちろんのこと、伯爵夫人のクリスタと息子のルカが無知なる者であることは知っていた。王の勅命がくだったときに渡された資料にあったからだ。

 だが、家令のダニエルから、メイドや料理人、庭師、出入りしている商家の者まで、ありとあらゆる人間が無知なる者だったのだ。

 無知なる者とは異形の者の干渉を受けない者たちのを指す。異形を視ることはできないが、異形もまた無知なる者に悪さは働けない。

(一体どうしたら、これだけの無知なる者を集められるのかしら?)

 ジークヴァルトもこれには気づかなかったのではないだろうか。

 リーゼロッテと接触を禁じられていた上、ダーミッシュ領は他の領地に比べて犯罪がほとんどない平和な土地だ。それなりに情報は集めていたようだが、そこに侮りはあっただろう。

(まったく使えない弟ね)

< 366 / 2,019 >

この作品をシェア

pagetop