ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 リーゼロッテは、その仕上がりを確認することはできない。スツールに腰かけているものの、本来なら令嬢の部屋にあってしかるべきであろうドレッサーは、この部屋には存在しなかった。

 ドレッサーだけではない。簡素な調度品しか置いていないこの部屋は、 およそ伯爵令嬢の部屋とは思えなかった。天蓋付きのベッド、上質だがそっけない四角いテーブルとソファ、広い部屋を見渡してもたったそれだけだった。

 重厚なカーテンがかかる窓には、なぜか鉄の格子がはめられている。調度品の作りはそれなりに立派だが、見ようによっては、牢獄のような印象をうける部屋であった。

 鉄の格子はリーゼロッテが自ら、義父(ちち)であるダーミッシュ伯爵にお願いしてつけてもらったものだ。これがあると、万が一窓ガラスが割れてもケガをしにくいのだ。

 リーゼロッテの周りでは、とにかくトラブルが絶えない。窓ガラスに石が飛んできて割れたり、窓からカラスが突っ込んできたり、皿がとんでいって使用人が軽い怪我を負ったこともあった。
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