ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ドレッサーの鏡も同様である。何度買い替えても、何かしらのことが起きて結局は割れてしまうため、部屋に置くこと自体をあきらめたのだ。

 とにかく、リーゼロッテの部屋には、割れそうなもの、飛びそうなもの、倒れそうなもの、刺さりそうなものは、一切置かれていなかった。

 おかげでリーゼロッテは、ここ何年も、自分の顔を自らの目で見たことはなかった。せいぜい紅茶にうつる自分の姿を確認するくらいである。

 家族はもとより、侍女のエラをはじめ使用人たちは、みな口をそろえたようにリーゼロッテの容姿をほめたたえる。しかし、リーゼロッテはそれを疑っていた。

 自分の記憶の中のリーゼロッテは、蜂蜜色の美しい金髪で、エメラルドのような大きな緑の瞳を持ち、睫毛はお姫様のように長く美しくカールしていた。白い肌はしみひとつなく、こぶりな唇は化粧を施さなくてもバラ色に色づき、柔らかそうな頬はずっと触っていたいくらいすべらかだ。

(日本だったら、アイドル級の美少女だわ)
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