ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 リーゼロッテは、ジークヴァルトに挨拶もしてないことに気づき、淑女の礼を取ろうとしたが、その前にジークヴァルトに声をかけられた。

「馬には乗ったか?」

 無表情のジークヴァルトに不意に問われたリーゼロッテは訝し気に返事をした。

「いいえ、こちらには馬車で参りました」

(自分で馬に乗るなって言ったんじゃない)

 ジークヴァルトの言うことなすこと、その大概がリーゼロッテの理解の範疇を超えている。毎日手紙のやり取りをしていたとはいえ、半月ぶりに婚約者に会ったのだ。もっとこう、他に言うことはないのだろうか。

「そうか」とリーゼロッテから視線を外したジークヴァルトは、フーゴに向き直った。

「少し借りていく」

 そう言ったかと思うと、リーゼロッテはジークヴァルトに強く腕を引かれ、視界が目まぐるしく動いた。気づいたらもう馬の背に横向きに乗せられており、その後ろにひらりとジークヴァルトがまたがった。

「行くぞ」

 そうとだけ言って、ジークヴァルトは足で合図をし馬を歩かせ始めた。

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