ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 馬上は想像以上に視界が高く、リーゼロッテは思わず身をすくませた。馬が進むとリーゼロッテの横向きの体がジークヴァルトの胸に押し付けられて、その頬が騎士服の胸に当たる。

 騎士服からふわりとたった香りに、リーゼロッテの鼓動がどきりと跳ねた。

(ヴァルト様の匂いだ……)

 整髪料なのか衣類の洗剤の残り香なのか、ジークヴァルトからいつも感じていたその香りに、王城で過ごした日々が急速に脳裏によみがえる。

 つい半月前の話なのに、ほぼ毎日ジークヴァルトと一緒にいたことを思い出したリーゼロッテは、無性に懐かしさと気恥ずかしさを覚えた。

 手綱を握るジークヴァルトの腕に挟まれるように座っていたが、馬が進むたびに上下に揺れるので、リーゼロッテは落ちたらと思うと急に怖くなった。ジークヴァルトの騎士服をつかむ手に、知らず力が入る。

 それに気づいたジークヴァルトは、片腕をリーゼロッテの腰に回した。引き寄せるように腕に力を入れると、ジークヴァルトは足を蹴って馬を走らせた。

 軽やかに走る馬は全力疾走には程遠かったが、リーゼロッテにしてみれば初めての体験だ。ジークヴァルトの腕のおかげで安定感は増したが、やはり上下に揺れる馬上が怖く感じられた。

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