ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「あの、ジークヴァルト様」

 見上げながら言うと、ジークヴァルトが青い瞳で見下ろしてきた。

「なんだ?」
「ジークヴァルト様は過保護すぎですわ」

 よく見ると目の下にクマがあるようにも見える。夜勤明けと言っていたからもしかしたら寝ていないのかもしれない。

「夕べはお眠りになっていないのではないですか?」

 リーゼロッテがそう言うと、「問題ない」と言ってジークヴァルトはすいと視線を逸らした。

 ジークヴァルトは言いたくないことや都合が悪いことがあると、いつもこうやって顔を逸らす。王城で毎日顔を合わせているうちに、ジークヴァルトは一見鉄面皮に見えて意外とわかりやすいと、リーゼロッテは思うようになっていた。

 リーゼロッテは両腕を伸ばしてジークヴァルトに頬を挟み込むように手を添えて、そのままその顔を自分の方に向けさせた。

「ヴァルト様は嘘つきでいらっしゃいますわ」
「オレは嘘は言わん」
「ですが、本当のこともおっしゃいませんでしょう?」

 ぷくと頬を膨らませて、リーゼロッテはそっとジークヴァルトの目の下のクマをなぞった。

「あまりご無理をなさらないでくださいませ。いくら王命でも、ジークヴァルト様は職務に律義すぎますわ」

 その言葉を聞いて眉間にしわを寄せたジークヴァルトは、リーゼロッテの膨らんだ頬を片手で乱暴にはさみこんだ。リーゼロッテの唇からぷすっと空気がもれる。

「お前が心配することではない」
「ジークヴァルト様は紳士たるものどうあるべきか、もう少しお考えになった方がよろしいですわ」

 むにと不細工顔で上向かされ、リーゼロッテはあきれたように言った。

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