ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 そんなふたりをジークヴァルトはあくまで無表情で見つめていた。しかし、リーゼロッテとルカのやりとりをほっこりと見守っていた使用人たちは、ジークヴァルトの様子に気づくとびくりと身を震わせた。

 本人的には普通にしているだけなのだが、周りの人間にはジークヴァルトがぎりぎりとふたりを睨みつけているように感じられた。

 公爵からにじみ出る威圧感は、どうにも理屈では言い表せない。生きていくために必要な本能が、今すぐ逃げろと訴えかけてくるのだ。

 その視線に気づいたルカは、臆することなくまっすぐにジークヴァルトを見上げた。

「公爵閣下」

 九歳とは思えない落ち着いた物腰で、ルカはジークヴァルトへ歩を進めた。

「ジークヴァルトでいい」

 ジークヴァルトのその言葉に、ルカは騎士の礼で返した。

「では、ジークヴァルト様。恐れながら、ひとつお願いしたいことがございます」

 ルカの慇懃無礼(いんぎんぶれい)ともとれる様子に、「ルカ?」とリーゼロッテが口を挟もうとした。ジークヴァルトはやんわりとそれを制すると、ルカに続けるよう視線で促した。

「ジークヴァルト様は王太子殿下付きの護衛騎士様として名をはせていらっしゃいます。ぜひともわたしと剣の手合わせをしていただけないでしょうか?」

 その言葉に一同がざわりとなる。ルカの口調は師事(しじ)を仰ぐようなものではなく、まるで決闘を申し込むようなものだった。

「ルカ、ジークヴァルト様のお手を煩わせるようなことを言うものではない」

 (たしな)めるように強い口調でフーゴが言った。

「あら、いいではないですか。一騎士としてこの申し出を受けるわよね、ジークヴァルト」

 アデライーデがニヤッといじわるく口角を上げる。完全に面白がっている口調だ。

「ああ、いいだろう」

 ジークヴァルトは表情を変えずに、ルカとの手合わせを二つ返事で了承した。

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