ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ガタイの大きい者ほど小回りがきかない。ルカは細かく動きながら、ジークヴァルトの隙をうかがった。

 ルカの剣術の師匠は老齢だったが、現役時代は勇猛(ゆうもう)果敢(かかん)な戦歴を持つ剣豪であった。その師匠直伝の戦術がルカの必勝の(かなめ)だ。

 師匠以外に本気で仕掛けるのは初めてだったが、ジークヴァルト相手ならば遠慮はかけらもいらないだろう。

 ルカは渾身(こんしん)の力をもって、ジークヴァルトにその剣を繰り出した。
 ジークヴァルトはそれを容易に避け、よろけて隙のできたルカに剣を向ける。それこそがルカの狙いだった。

 はじめの一撃はフェイクだった。よろけたのも見せかけで、相手が勝利を確信し手を緩めたところを返り討つ。

 次の瞬間、がしゃんと音を立て、剣を取り落としたのはルカだった。

 ルカの作戦は完璧だった。神経が研ぎ澄まされ、稽古の時以上に体が俊敏に反応していた。隙をついたように降ろされたジークヴァルトの剣をよけ、ルカは万全の態勢でその空を切った相手の手元に一太刀入れるはずだった。

 しかしそれを見越したように、ジークヴァルトはルカの渾身の一撃をあっさりとはじき飛ばした。

 勝負はまさに一瞬だった。
 剣を飛ばされたルカは衝撃で地に倒れ、しびれた手首を反対の手でかばうように握りこんだ。

(――完敗だ)

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