ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 自分の手の内などジークヴァルトにはお見通しのようだった。さすがとしか言いようがない。おかげで不安も迷いもきれいさっぱりなくなった。

「完敗です。子供だからといって手を抜かず、手合わせしてくださりありがとうございました」

 ルカは跪いて騎士の礼を取る。騎士の礼には立ったまま胸に手を当てる簡略的な方法と、膝をついて忠誠を示す方法の二通りがあった。

「なかなかいい手合わせだった」

 そう言ってジークヴァルトが立ち上がるよう促すと、ルカは素直に立ち上がった。

 以前からルカは、ジークヴァルトの噂を聞くたびに不安を募らせていた。ジークヴァルトが大切な義姉(あね)を任せるに足る人物なのか、自分のこの目で確かめたいと思っていたのだ。

「未熟な身であなたを試すような真似をして申し訳ありませんでした」

 真剣な面持(おもも)ちでジークヴァルトを見上げながらルカは言葉を続けた。

「血のつながりはなくとも、わたしたちにとって義姉は大切な家族です。ジークヴァルト様、これからも、どうか、義姉をよろしくお願いいたします」

 今度は貴族の礼をとって、ルカは深々と頭を下げた。

 ジークヴァルトは「ああ」と言ってルカのその頭に手を乗せようとし、一瞬迷ってからその手をルカの目の前に差し出した。顔を上げたルカは、満面の笑顔を向けてジークヴァルトのその手を取った。

 ふたりはがっちりと握手を交わし、通じ合ったようにどちらからともなく頷きあう。ルカの表情に先ほどのような敵愾心(てきがいしん)はかけらもなく、そこにあるのは純然たる信頼だった。

 公爵に立てつくなどとルカらしからぬ行動に驚いていた一同は、ふたりが握手する姿に安堵に息を漏らした。

 ふたりの会話は周りの人間の耳には届かなかったが、丸く収まった様子に場の雰囲気は再び穏やかなものとなった。

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