ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 たのしいピクニックの興奮もようやく冷めてきた数日後の夜、リーゼロッテは自室のベッドで眠りにつこうとしていた。

 ピクニックがお開きになったあと、ダーミッシュ領に泊まっていくことを提案されたジークヴァルトは、仕事を理由にあわただしく馬を駆って帰っていった。

 ジークヴァルトは本当に忙しい中わざわざ来ていたようだ。翌日には今まで通りに手紙がきたので、体調的には問題ないようだが、リーゼロッテは無理はしないでほしいともう一度手紙にしたためた。

 十五歳の誕生日を数日後に控え、今夜は守り石を外して眠る夜だ。ジークハルトの言うことが本当ならば、眠りと共に守護者の力を開放するのは今夜が最後になるだろう。

 そうなれば今まで見ていた奇妙な夢も、今後は見なくなるのかもしれない。そう思うと、リーゼロッテは少し寂しい気持ちになった。

 王城でジークヴァルトと力の制御の特訓を始めて以来、自分の力を少しだけ扱えるようになった。だが、それと守護者は結びつかない。自分の内にいるはずの守護者の存在を、リーゼロッテは微塵も感じることはできないでいた。

(ハルト様みたいに、わたしの守護者とも会話ができたらいいのに……)

 カイや王子に、守護者とは本来そんなものだと言われたが、うまく発現しない力にもどかしさを感じてしまう。リーゼロッテが力を扱えないのは守護者との調和がとれていないせいだと言われれば、そんな思いが強くなるのは無理もなかった。

(誕生日を迎えれば、母様の力も消えて無くなってしまうのかしら……)

 ジークハルトはマルグリットの力がリーゼロッテを守っていると言った。リーゼロッテはやはりその力を感じることはできなかったが、ジークヴァルトはその力がリーゼロッテを薄い膜のように包んでいると教えてくれた。

 実母であるマルグリットの思い出は、いつも朧気(おぼろげ)だ。

< 447 / 678 >

この作品をシェア

pagetop