ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 母を思うとき必ずと言っていいほど、対のようにあの時の父親が浮かんでくる。だが、あのあと何があったのか、何一つ覚えていない。

 気づけばダーミッシュ家の令嬢として、当たり前のように生活していた。

 ――愛されている。幸せだ。いまわたしはここに生きている。

 そんなとりとめもないことを思いながら、リーゼロッテは眠りについた。

 守護者の力があたりを包み、静かに夜が更けていく。

 朝になれば、力を使い果たしておなかをすかせたリーゼロッテのために、エラがクッキーを食べさせてくれるだろう。

 そんな当たり前の日常も、もうすぐ終わりを告げる。


 その夜リーゼロッテは、小さな入り江から大海原に向かって船で旅立つ、そんな壮大な夢を見た。


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