ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第23話 泣き虫な異形】

「ねえねえ、リーゼロッテ様のお姿ってもう見た?」
「見た見た! もうウワサ通り妖精って感じ? 同じ人間とは思えない!」
「でしょでしょ! わたしも人形なんじゃないかって思わず二度見しちゃったし!」
「え?ずるい! わたしまだ見てない!」
「幻の令嬢っていうからさ、ここだけの話、ウワサの通り病弱か、よっぽど見目が悪いかのどちらかだと思ってたんだけど。本物のリーゼロッテ様は、深窓の妖精姫の名にふさわしい可憐な方だったわぁ」

「でもでも、リーゼロッテ様ってちょっと近寄りがたくない? なんていうかこう、神秘的っていうか」
「わかるかわる! 旦那様とはまた違ったお力を纏ってて、なんだか恐れ多い感じだよね」
「あ~それ、わかる~! 妖精って言うより、精霊的な?」
「そう、それ! 精霊的な!」
「え~うそずるい! わたしも見た~い!!」

「それなら泣き虫ジョンの所に行けば会えるかもよ」
「泣き虫ジョン? あの裏庭でいっつもジメジメしてるジョン?」
「そうそう、そのジョン。最近リーゼロッテ様がジョンのいる場所で頻繁に目撃されてるらしくて」
「あ、その話わたしも知ってる! 不動のカークに続いてジョンまでリーゼロッテ様に心を開いてるって話だよ」
「カークの話もびっくりだよね」
「ええ? 何それ? そういえば最近カークを見かけないと思ってたけど、何かあったの?」

「あんた、そんなことも知らないの? リーゼロッテ様がカークを動かしたらしいよ」
「カークって何百年もあそこに立ってたんでしょ? あたしなんてカークを初めて見たとき()られると思ってマジびびっちゃったし。まあ、無言で動かないし、害はないってわかったら平気になったけどさ。そんなカークをリーゼロッテ様が瞬殺で懐柔したって聞いたときも、あたしマジびびったわ」
「えええ! 押しても引いても微動だにしなかった仁王立ちのカークが!?」

< 453 / 2,019 >

この作品をシェア

pagetop