ふたつ名の令嬢と龍の託宣 -龍の託宣1-
 ここはフーゲンベルク公爵家の洗濯場だ。下働きの少女が三人、洗濯物をせっせと干しつつ、おしゃべりに花を咲かせていた。

 リーゼロッテはダーミッシュ領で無事に十五歳の誕生日を迎え、領地のみなに盛大に祝われた。その数日後、屋敷中の者に泣きながら見送られ、ジークヴァルトの待つフーゲンベルク領に赴いたのがだいたい半月前のことだ。

 アデライーデはリーゼロッテをジークヴァルトのもとに送り届けると、新たな任務を受けてあっという間に去って行ってしまった。久々の実家でゆっくりする暇もなかったようだ。

 エラとふたりだけの来訪だったが、思った以上にふたりは快く受け入れられた。

 公爵家サイドにしてみれば、リーゼロッテは格下の伯爵令嬢。使用人たちに受け入れてもらえるか、リーゼロッテは心配していた。

 しかし、エラがうまく立ち回ってくれているせいか、リーゼロッテは思った以上に歓待され、わりと自由に過ごさせてもらっている。屋敷内で使用人によるリーゼロッテの目撃情報が多発しているのもそのせいだ。

「あー、でも、何より一番驚いたのは、旦那様のあのデレっぷりよねー」
「そうそうそう! あの鉄面皮の旦那様の口の端が! こう、上にくいって」
「ねー! 旦那様の笑うところを見るなんて、あたし一生あり得ないって思ってた!」
「隙あらばリーゼロッテ様に触れようとしたりして。あたし俄然、旦那様を応援しちゃう!」
「あんなふうに旦那様を笑顔にできるなんて。リーゼロッテ様、絶対に逃しちゃダメだよね」
「ええ! ずるい!! わたしも旦那様の笑うとこ見てみたいぃ!!!」

 洗濯日和の夏の空に、かしましいおしゃべりが響き渡る。仕える主人に言いたい放題の三人を、横目で見ながら通り過ぎる者はいたものの、(とが)める者は誰もいなかった。

 フーゲンベルク公爵家は、その高い地位にそぐわないほど、代々気さくな家風なのであった。

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