ふたつ名の令嬢と龍の託宣
【第26話 聖女の微笑】
「旦那様、追加の仕事をお持ちしましたよ」
マテアスは扉をノックした後、返事を待たずしてジークヴァルトの部屋の扉に手をかけた。この部屋を訪れるのは、自分か侍女長である母のロミルダくらいだ。ジークヴァルトは在室中、部屋に鍵をかけたりはしないので、戸惑いもなく扉を開ける。
「ヴァルト様?」
異変に気付いたマテアスは、足早に室内に足を踏み入れた。
(いない……)
部屋はもぬけの空だった。
先刻自分が置いていった仕事は、あらかた終わっているようだ。追加の書類を脇に置いた後、マテアスはテーブルの上の書類を手に取って確認した。
ジークヴァルトがいつも座っているソファに手を当てる。艶やかな革張りの座面には、まだ温もりが残っていた。出て行ってからさほど時間は経っていないようだ。
ソファの片隅に開かれた便せんが無造作に置かれているのが目に入る。これはリーゼロッテからの手紙だ。
(……おかしい……どういうことだ……?)
マテアスは扉をノックした後、返事を待たずしてジークヴァルトの部屋の扉に手をかけた。この部屋を訪れるのは、自分か侍女長である母のロミルダくらいだ。ジークヴァルトは在室中、部屋に鍵をかけたりはしないので、戸惑いもなく扉を開ける。
「ヴァルト様?」
異変に気付いたマテアスは、足早に室内に足を踏み入れた。
(いない……)
部屋はもぬけの空だった。
先刻自分が置いていった仕事は、あらかた終わっているようだ。追加の書類を脇に置いた後、マテアスはテーブルの上の書類を手に取って確認した。
ジークヴァルトがいつも座っているソファに手を当てる。艶やかな革張りの座面には、まだ温もりが残っていた。出て行ってからさほど時間は経っていないようだ。
ソファの片隅に開かれた便せんが無造作に置かれているのが目に入る。これはリーゼロッテからの手紙だ。
(……おかしい……どういうことだ……?)