ふたつ名の令嬢と龍の託宣 -龍の託宣1-
 自分の主人は婚約者からの手紙をそれはそれは大事にしている。誰にも読ませないし、触らせない。届いた手紙はリーゼロッテの年齢ごとに箱にしまわれ、全て綺麗な状態で保管されている。

 時折箱を開いては、懐かし気に手紙を読んでいるようだが、ロミルダも自分も気づかないふりをしていた。

 そんな大切な手紙をこのように放置して、部屋を空けることなどあり得ない。部屋の鍵も開いていた。部屋を出るときは、(あるじ)は必ず鍵をかけていくというのにだ。

 青ざめたマテアスは立ち上がり、素早く部屋を出た。念のため、スペアの鍵で施錠しておく。

(行くとしたら、リーゼロッテ様のお部屋……いや、それなら時間的に執務室から行き違いになるはずはない。でなかったら厩舎(きゅうしゃ)の方か……?)

 気が逸る中、マテアスは足早に屋敷の中を移動した。

(くそっ、なんでいないんだ)

 厩舎へはジークヴァルトは来ていないようだった。きまぐれに誰も伴わずに馬を駆って出ていくことがあるので、もしやと思ったのだが。

 不意に、あの日の恐怖がよみがえる。血の気が引き、どくりと心臓が音を立てた。

「マテアス? どうしたの、そんなに血相を変えて」

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