ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 しかし、息子のジークヴァルトに爵位を譲ると、ジークフリートはさっさと引退して田舎へ引っ込んでしまった。それ以来、リーゼロッテの文通相手は、新公爵のジークヴァルトとなった。

 手紙にすら黒モヤが見えて怖くて開封できないため、毎回エラに内容を確かめてもらっている。自分が同じことをやられたらと思うと、良心が痛むが、背に腹は代えられない。

 せめて返事だけも誠心誠意書いてみようと思うのだが、怖さが勝って社交辞令のみのそっけない文章になってしまう。結局、贈り物は放置の運命なので、もう、なんだかなあという状態である。

 リーゼロッテはここ二年の間、贈り物が届くたびにジークヴァルトへ罪悪感をもちつつ、形式的なお礼の手紙を返していた。

 ちゃり、と、リーゼロッテの胸元で、青銅色の石がついたシンプルなペンダントが揺れた。あの日、泣き止まないリーゼロッテを慰めるように、ジークフリートがくれたものだ。

 もらった当初は、青い石がそれは綺麗に輝いて、その青を光にかざしてはうっとりと眺めていたものである。

 今ではくすんだ青銅色になってしまったが、初恋の人からもらったペンダントを、リーゼロッテは、いまでも大事に身に着けていた。それこそお守りのような存在だ。

 不安に思った時、このペンダントを握りしめると、不思議と心が落ち着く。今日もまた、無意識に、リーゼロッテはペンダントを握りしめた。

 そんな平穏な毎日が続いていた春のある日、王妃から一通の招待状が届くのであった。

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