ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ジークヴァルトが公爵位を継ぐ前は、ジークヴァルトの父であるジークフリートが、時々、リーゼロッテに手紙をくれた。

 ジークヴァルトと初めて引き合わされた時、リーゼロッテはあまりの恐怖で泣いてしまった。今思うと、ギャン泣きである。

 そんなリーゼロッテをやさしく抱き上げてなぐさめてくれたのが、当時フーゲンベルク公爵だったジークフリートであった。幼少のできごとで克明には思い出せないが、黒髪に青い瞳のかっこいいおじ様だった。

 それ以来リーゼロッテは、日々の楽しかった出来事を綴って、ジークフリートに何度も手紙を送ったものだった。そして、返事が届くたびに、ジークフリートにやさしくしてもらったことを思い出していた。

 いわゆる初恋の思い出というやつである。

 ジークフリートの返事の手紙は、一言二言のそっけないものだったが、父あてに届く手紙の中に彼のサインを見つけるたびに、心躍らせていたのだ。その時の手紙は、今も引き出しの奥にしまってある。リーゼロッテの大切な思い出だ。
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