ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「お断りすることはできないのですか?」

 もうすぐ十歳になる義弟(おとうと)のルカが、かわいらしく小首をかしげる。ルカは亜麻色の髪に水色の瞳をもつ美少年だ。姿かたちは、母親のクリスタにそっくりである。

 リーゼロッテは養子であったため、実の母親譲りのハニーブロンドの髪に緑の瞳をしている。ダーミッシュ夫妻と似ていないのはそのためだった。

 養子であっても、ダーミッシュ夫妻にとっては、リーゼロッテはかけがえのない大事な娘である。婚約話がなければ、ルカとリーゼロッテを結婚させて、ずっと手元に置きたいと思う程に、ふたりはリーゼロッテを溺愛していた。

「王家からの招待をお断りするのは不敬にあたる。よほどのことがない限り欠席はできない」

 よほど、とは生死にかかわるほどのこと、ということである。実際にリーゼロッテはぴんぴんしている。今日も五人前の朝食をぺろりと平らげ、食後のデザートを三回おかわりした。婚約者である公爵経由で、リーゼロッテが病弱だという噂が嘘であることも、王家にはバレているかもしれない。

 仮病もまたしかり。今回欠席したとしても、王子の婚約者探しが目的なら、また招待をうけるかもしれなかった。

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