ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ――龍の血が薄くなってきている

 それはもう疑いようがない。龍の直系ともいえる王族は、ここ数代赤毛の王が続いていた。初代王の面影は、もはや欠片も見いだせないほどだ。

 始まりの出来事などなかったかのように、ただ時だけが過ぎていく。

 託宣が違えられたことなど、今まで一度たりとてない。龍がそれを許してこなかったのだから。
 それなのに、続く不可解な託宣。まるで託宣者を惑わすかのように。

 それだけ、龍の力が弱くなっているのか。それすらも龍の思惑か。答えの出ない問答を、ジークハルトはここ最近胸の内で繰り返していた。

(本当にその時が近づいているのなら……)

 悠久の時を経てきたこの身で、今さら()いても仕方がない。そうは思うが、芽生えたこの衝動を抑えることなど、ジークハルトにはもはやできはしなかった。

 秋の匂いを(まと)う風は、次第に雨粒を含み始めている。鈍色(にびいろ)の空を見上げて、ジークハルトはじっとその時に想いを()せた。

 この国の短い夏が、もう終わろうとしている――

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