ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 一同が振り向くと、カイを連れたハインリヒが驚いたような顔で立っていた。急な王太子の登場に、団員たちがあわてて騎士の礼を取る。

「いや、楽にしていい。いつも通り訓練を続けてくれ……」

 そこまで言ったハインリヒが、はっとしたように青ざめた。その視線の先にはルカがいる。

(あちゃー。知り合いの子供ってリーゼロッテ嬢の弟だったのか)

 カイはまずいといった表情を隠そうともせずに片手で目を覆った。

「王子殿下。こちらはダーミッシュ伯爵のご子息です」

 キュプカーがそう紹介すると、ルカは緊張した面持ちで貴族の礼を取った。

「王太子殿下、お初にお目にかかります。ダーミッシュ伯爵長男、ルカ・ダーミッシュでございます」

 ルカは跪いて貴族として最大の礼を取った。

「ハインリヒ様」

 ルカを前に呆然としているハインリヒの背中を、周りに気づかれないようにカイはつついた。

「あ、ああ。顔を上げてくれ。君は……、リーゼロッテ嬢の弟だね」

 ルカは立ちあがり、不敬にならない程度に顔を上げてハインリヒに笑顔を返した。

「はい。王子殿下には、義姉がたいへんお世話になったと伺っております。両親ともども、王子殿下と王家の方々に心より感謝いたしております」

(うわ、マジでヘマやらかしたかも)

 ルカの笑顔は誰かを彷彿とさせた。今日ルカが来るのを知っていたのなら、カイはこの場にハインリヒを連れてくることはしなかっただろう。

< 575 / 678 >

この作品をシェア

pagetop