ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「昨日、リーゼロッテ様がお倒れになったとき、ジョンのいる枯れ木のまわりにリーゼロッテ様のお力がはりめぐらされておりました」

 エマニュエルはジークヴァルトに昨日のことを、確認がてら再度報告していた。

『あー、あの木、なんか今もピカピカに光ってるよね』

 ジークハルトが空中であぐらをかきながら楽しそうに言葉をはさんだ。その声はジークヴァルトにしか聞こえていないが、ジークヴァルトは完全に無視を決め込んでいる。

 急な雨に降られたふたりは急いで屋敷の中に戻り、エマニュエルが近くにいた使用人にタオルを持ってくるよう指示をして、振り返ったらリーゼロッテは力を使い果たして倒れかけていた。エマニュエルが目を離したほんの一瞬の出来事だった。

「リーゼロッテ様がおっしゃるには、雨に濡れるジョンが可哀そうだとお思いになったとのことでした」
『ははっ、リーゼロッテらしいや』

 力有る者が力を使い過ぎて倒れることは、子供の頃によくあることだ。そんなことを繰り返して、みな自然と力加減を身につけていく。
 しかしそれは、制御が甘い状態で調子に乗って力を使うからこそ起こる事態だった。

「問題なのは、リーゼロッテ様がまったくの無自覚で、お力を使っていらっしゃることですな」

 エッカルトが深刻な顔で眉間にしわを寄せた。マテアスも黙って頷いている。

 驚いて飛び出す程度の力なら放っておいても問題はないが、昨日の状態は命の危険もあり得る事態だった。エマニュエルがすぐに菓子を差し入れなければ、リーゼロッテはどうなっていたか考えるだに恐ろしい。

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