ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「旦那様、差し出がましいと承知の上で申し上げます。リーゼロッテ様のお力の制御の訓練は、エマニュエルにおまかせになってはいかがですかな?」
「そうですよ、ヴァルト様。エマ姉さんならアデライーデ様のお力の制御の訓練も行っていましたし、一番の適任者でしょう? だいたいヴァルト様は子供の頃から訓練せずとも、力の制御なんて初めからできていたじゃないですか。そんなあなたがリーゼロッテ様の指導するのは無理がありますよ」

 言うなれば、我流で力を付けた天才超一流選手が、年端もいかない子供に指導するようなものである。名プレイヤーが名監督になれるとは限らない。

 特にジークヴァルトはすべてにおいて感覚で力を使っていた。そこに理屈も理論もない。ひょいと集めてぎゅっと縮めてぱっと出せば力は使えるのだ。

 簡単だろうそらやってみろと言われても、初心者のリーゼロッテにできようはずもない。ジークヴァルトは全くもって指導者には不向きとしか言いようがなかった。

『制御云々(うんぬん)以前に、ヴァルトは力を扱えなきゃ異形に襲われて死んじゃうからね。嫌でも身につくってもんだから仕方ないよ』

 ジークハルトは肩をすくめてへらりと笑った。

「ご自分で教えてさしあげたい気持ちもわかりますけど、いい加減諦めたらどうなんです?」
『だけどヴァルトは誰にも触らせたくないんだよね。だったらさっさと自分のものにしちゃえばいいのに』
「………」

 要するにジークヴァルトは独占欲で、リーゼロッテを他の者に任せたくないのだ。マテアスなどは心が狭い主に呆れ半分で笑って見ていたのだが、リーゼロッテの不利益になるのならこのままでいるわけにもいかないだろう。

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