ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 考える前にリーゼロッテはそう口にしていた。違和感に身をよじるが、高い机からぶらりとはみ出した両足が、力なくだた空を蹴っただけだった。

 押さえつけられた手首にぐっと力を入れられ、リーゼロッテのエメラルドのような瞳に恐怖の影が落ちる。ジークヴァルトの瞳が細められ、その口元に笑みが刻まれた。

(こんな笑い方……ヴァルト様じゃない……!)

 違和感が確信に変わっていく。

「……ハルト様……ジークハルト様なの……?」

 震える唇から紡がれた問いに、ジークヴァルトは破顔した。

「はは、やっぱりわかるんだ? さすがは龍が結びし運命の相手だね」

 その声はジークヴァルトのものであって、ジークヴァルトのものではなかった。

「ごめんね、痛かった? 久しぶりの肉体はなかなか力加減が難しくて」

 守護者のいつも通りの調子のよい言葉が、ジークヴァルトの口から紡がれている。それを前に、リーゼロッテは事態を飲み込むことがまるでできない。そんなリーゼロッテを前に楽しそうな声音で言葉は続いた。

「ヴァルトもまだまだ甘いよね。こんなにあっさりと体を乗っ取られるなんてさ」

 リーゼロッテの瞳が戸惑いに揺れる。「なぜ……?」と、かすれた声がその口から小さく洩れた。
 ジークヴァルトの顔をしたそれは、組み敷いたリーゼロッテの緑の瞳を覗き込むようにうっそりと笑った。


「リーゼロッテ。悪いけど、君にはヴァルトの子供、今すぐにでも孕んでもらうから」

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