ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 三階に降り廊下を進むと執務室の扉の前で、エッカルトと護衛服を着た壮年の男と細身の若い男が三人で話しているのが見えた。その後方でエマニュエルが控えている。

「マテアス!」

 いち早く気づいたエマニュエルが青ざめた顔を向け、一同の視線がマテアスに集まった。エマニュエルよりも青い顔のマテアスを見て、誰もが緊張した面持ちとなった。

「マテアス、報告を」

 エッカルトに促され、呼吸を整えたマテアスは姿勢を正した。

「今からお話しすることは他言無用に願います。外の窓から執務室内を確認したところ、旦那様はリーゼロッテ様を組み敷いておられました。異形が騒いでいるのはそのせいです」

 息を飲む一同を前に、マテアスは努めて冷静な声で言葉を続ける。

「窓からの侵入を試みましたが、執務室を包むこの力と同じものに阻止されました。――恐らく旦那様は……何者かに憑かれ、操られているのだと思われます」
「ジークヴァルト様が? まさかそんなことが……!」

 細身の若い護衛騎士が信じられないとばかりにマテアスにつかみかかった。

「マテアス、お前いい加減なことを……!」
「エーミール様、おやめください!」

 慌ててヨハンがマテアスとの間に入ろうとする。エーミールと呼ばれた青年はヨハンを睨みあげて、その手を忌々しそうに振り払った。

「ヨハン・カーク、お前ごときがわたしに触れるな!」
「エーミール」

 そばにいた年配の護衛騎士が(とが)めるように名を呼んだ。

「今はそんな場合ではないだろう」
「ユリウス叔父上……」

 しぶしぶと言った(てい)でエーミールは引き下がった。

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