ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 リーゼロッテは目を丸くしたあと眉根を寄せた。何しろ目の前の守護者の姿は、相当痛々しく感じられ、見ていて決して楽しいものはなかった。

『この姿は、オレが死んだときの出で立ちなんだけど……これならすごく反省しているように見えるでしょ?』
「ええっ!?」

 その発言自体が反省していないことの証明のようだが、ジークハルトはお構いなしに言葉を続けた。

『しばらくこの格好でいれば、リーゼロッテも許してくれるかと思ってさ』

 こんな血まみれの状態で周りをうろうろしてほしくない。そこら辺にいる異形にもスプラッタなものはちらほらいるが、知り合いのそんな姿に耐えられるほどリーゼロッテの神経は図太くなかった。

「だ、ダメですわ!」
『えー、冷たいなぁリーゼロッテは。そこを何とか許してよ。もう二度とあんなことはしないからさ』
「違いますわ……! そうではなくて、そのような格好は今すぐやめてくださいませと申し上げているのです!」
『え? じゃあ、この前のこと、許してくれるんだ』
「ええ!? ……いえ、そんな……そういうわけには……」

 なにしろあの日、本気で無茶苦茶怖かったのだ。リーゼロッテが言いよどむと、ジークハルトは血まみれの顔をぐいと寄せてきた。

 肩に刺さった折れて曲がった矢の先がぷらりと揺れる。矢傷がリアルすぎて、リーゼロッテは思わず目を背けた。

 じーっと顔を覗き込まれて、リーゼロッテはその圧に耐えきれずに涙目であっさりと白旗を上げた。

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