ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【番外編 孤独な龍と星読みの王女】

 昔むかし、生まれつき目の見えない王女がいました。
 独りでは何ひとつできない自分をかなしんで、王女は星読みの塔に閉じこもり、毎日毎日泣いて暮らしていました。

 ある時、妹姫の猫が逃げ出して、行方不明になりました。
 みな、必死に探しましたが、猫を見つけることはかないません。
 妹姫は元気をなくし、病気になって寝こんでしまいました。

 王女は山の上の塔から、神様に祈りました。
「どうか猫がみつかりますように。妹姫の病気がよくなりますように」
 王女は食べることも眠ることもわすれて、神さまに祈り続けました。

 その声がきこえたのは、祈りはじめてから3日目夜でした。
『いちばん陽の当たる窓にミルクを用意せよ』
 頭の中に直接ひびく声に王女はとてもおどろきました。
「あなたは神さまなのですか?」
 王女はそう問いかけましたが、返事はありません。

 耳に残るその声は、とてもやさしく心地よいものでした。
 朝日がのぼる一瞬まえの、夜とも朝ともいえない、ほんのみじかい時間のできごとでした。

 そのことを王さまに伝えると、王さまはお城の中でもいちばん陽の当たる南の部屋の窓に、ミルクをたくさん用意しました。

 すると、なんということでしょう。
 屋根裏のすきまから、妹姫の猫と、その猫にそっくりな5匹の子猫たちが、ミルクをのみにやってきました。
 妹姫はとてもよろこんで、病気もすっかりよくなりました。
 それからというもの、王女は神様のために、毎日お祈りをささげました。

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