ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ある時、王妃さまにもらった大事な指輪を、王さまはなくしてしまいました。
 王妃さまは怒ったりはしませんでしたが、影でとても悲しんでいることを、王さまは知っていました。

 王さまは、星読みの塔に住まう王女にこのことを話しました。
「王女よ。そなたの瞳は光をうつすことかなわぬが、ほかの誰にも聞けぬものを耳にすることができる。どうかわたしを助けてくれまいか」
 はじめての王さまのお願いに、王女はとてもうれしくなりました。
「わたくしでよければお力になりましょう」

 王女はまた神さまに祈りをささげました。
 今度は2日目の夜に、あのときの声が王女の耳にとどきました。
『王の指輪は東の大木の枝の中にある』

 その声の通り、東の庭のいちばん大きな木を調べたところ、小鳥の巣の中に王さまの指輪をみつけることができました。

 それから王女は、耳をすませるのがくせになりました。
 小鳥の歌声や森のざわめき、動物たちの足音。
 神さまの声は聞こえませんでしたが、世の中には、たくさんのよろこびと祝福があることを、王女は知りました。

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